恒星間天体「ボリソフ彗星(C/2019 Q4, 2I/Borisov)」がだんだん近づいてきましたね。
太陽に最接近する12月7日にはまだ1か月半ほどありますが、ハーシェル宇宙望遠鏡によって撮影されたボリソフ彗星の画像が、先ごろNASAから公開されたのをご覧になった方も多いと思います。
確認された恒星間天体としては2番目となるボリソフ彗星はどのくらい明るくなるのか、肉眼で見ることができるのかについて簡単にまとめました。
ボリソフ彗星(C/2019 Q4、2I/Borisov)
2019年10月12日にハッブル宇宙望遠鏡が撮影したボリソフ彗星。このとき、太陽からの距離は約3億6千万Km(約2.4au)。
ボリソフ彗星ってどんな天体?
「観測史上2番目の恒星間天体」、あるいは「確認された最初の恒星間彗星」と呼ばれるボリソフ彗星について、簡単におさらいしておきましょう。
ボリソフ彗星(C/2019 Q4、I2/Borisov)は、2019年8月30日にクリミアのアマチュア天文家ゲンナジー・ボリソフ(Gennadiy Borisov)氏によって発見されました。
発見時、太陽とボリソフ彗星の距離は約4億2,000万Kmで、移動速度は時速約15万Km(秒速42Km)。これは、同程度の距離の、太陽系内の天体の速度に比べるとかなり速いものです。たとえば、準惑星ケレスは太陽との距離は約4億1,400万Kmで、移動速度(軌道速度)は時速約17.9Kmです。
このことから、ボリソフ彗星は太陽系外からやってきた(そして太陽系外に去っていく)天体、つまり恒星間天体であると見られています。
また、ボリソフ彗星は発見当初からぼやけた外観をしてため「彗星」と見られていました。最近は、先に掲載したハッブル宇宙望遠鏡による最近の画像から分かるように、太陽を巡る彗星と見た目上の区別ができないくらい、いっそう「彗星」らしい姿となってきています。
これは、2017年に初めての恒星間天体と確認されたオウムアムアとの大きな違いです(オウムアムアは小惑星の一種)。
最接近時には肉眼で見える明るさになる?
さて、気になるのはボリソフ彗星がもっとも私達に近づいたとき、肉眼で見ることができるほどの明るさになるのか?ということです。
ボリソフ彗星が太陽に最も接近するは12月7日、地球に最も接近するのは12月28日ですので、12月1~31日までの明るさをNASAのHORIZONS Web-Interfaceで計算したのが次の表です(必要な項目のみ抜き出しています)。
各データは“日付”の00:00での計算結果です。ただし、時間は世界協定時刻UTC(日本時間の9時間前)です。“距離” は地球とボリソフ彗星との距離(au)と思ってください。
日付 | 等級 | 距離 |
---|---|---|
2019/12/01 | 15.98 | 2.047909 |
2019/12/02 | 15.97 | 2.039678 |
2019/12/03 | 15.96 | 2.031762 |
2019/12/04 | 15.95 | 2.024163 |
2019/12/05 | 15.94 | 2.016883 |
2019/12/06 | 15.93 | 2.009920 |
2019/12/07 | 15.93 | 2.003278 |
2019/12/08 | 15.92 | 1.996954 |
2019/12/09 | 15.91 | 1.990951 |
2019/12/10 | 15.91 | 1.985268 |
2019/12/11 | 15.90 | 1.979903 |
2019/12/12 | 15.90 | 1.974857 |
2019/12/13 | 15.89 | 1.970129 |
2019/12/14 | 15.89 | 1.965718 |
2019/12/15 | 15.89 | 1.961622 |
2019/12/16 | 15.89 | 1.957839 |
2019/12/17 | 15.88 | 1.954368 |
2019/12/18 | 15.88 | 1.951207 |
2019/12/19 | 15.88 | 1.948354 |
2019/12/20 | 15.89 | 1.945807 |
2019/12/21 | 15.89 | 1.943564 |
2019/12/22 | 15.89 | 1.941621 |
2019/12/23 | 15.89 | 1.939977 |
2019/12/24 | 15.90 | 1.938629 |
2019/12/25 | 15.90 | 1.937574 |
2019/12/26 | 15.91 | 1.936809 |
2019/12/27 | 15.91 | 1.936332 |
2019/12/28 | 15.92 | 1.936139 |
2019/12/29 | 15.93 | 1.936226 |
2019/12/30 | 15.93 | 1.936591 |
2019/12/31 | 15.94 | 1.937229 |
ご覧のように、明るさはほぼ16等級のままで、残念ながら裸眼だけでなく一般的な家庭用望遠鏡(口径10~30cm)でさえ肉眼で見ることは無理な明るさです。
ただ、一般に、新しく発見された彗星は予測できない活動により、突然に明るくなることがあります。もっとも近づいても2au程度なので大きな期待はできませんが、家庭用望遠鏡で見ることができる程度に増光する可能性もありますので、期待せずに待つのが良いと思います。
ボリソフ彗星はどこに見える?
巨大な望遠鏡でなくても、10cm~の望遠鏡と適切な機器があれば、ボリソフ彗星を写すことができます。
下の星図は、JPLのデータベースに記載されている軌道要素を使い、AsroArtsのステラナビゲータで計算したボリソフ彗星の位置をプロットしたものです。画像をタップ(クリック)して拡大してご覧ください(見難くて申し訳ないです)。
12月は夜が明ける前にコップ座からうみへび座のあたりに見えています。
より正確な位置については、今後専門サイト等で公開されると思われます。上の図はこのあたりに見えるんだな、という参考程度にご覧になっていただければと思います。
ボリソフ彗星の軌道
最後に、ボリソフ彗星がどちらから近づいてきて、太陽系をどのように横切り去っていくのか、その軌道を見てみたいと思います。
下のアニメーションはNASAの“Newly Discovered Comet Is Likely Interstellar Visitor”のページに掲載されているものです(©NASA/JPL-Caltech)。
おひつじ座を太陽系の向こう(正面やや左)に見る位置に視点があります。見て分かるように、ボリソフ彗星は太陽系の上(北)側からはいり、火星の軌道よりも外側を通って下(南)へ抜けていきます。
ステラナビゲータで確認すると、ボリソフ彗星はカシオペア座方面からやってきて、太陽系を通り過ぎた後、ぼうえんきょう座の方に向かって去っていくように見えます。
そう言えば、コーネル大学のPiotr A. Dybczyński氏らは “Kruger 60 — a plausible home system of the interstellar comet C/2019 Q4” の中で、ケフェウス座(カシオペア座のとなりです)のKurger 60という星系がボリソフ彗星の故郷かもしれない、と論じていました。
ボリソフ彗星が発見されてからひと月に満たない9月24日に発表された論文です。ボリソフ彗星のより詳しい軌道が分かると、故郷はまた違った星系となるかもしれませんね。
まとめ
本記事のまとめです。
- ボリソフ彗星は観測史上初の恒星間彗星となるかもしれない。
- ボリソフ彗星が私達に最も近づいても肉眼で見ることは無里。
- 最接近の頃、ボリソフ彗星はコップ座のあたりに見える(はず)。
- ボリソフ彗星は火星軌道の外側を、太陽系の北から南へ抜けていく。
天文や宇宙について詳しくない初心者の方にも分かるように書いたため、科学的には不正確な表現があるかもしれませんがご容赦ください。
事実誤認や明らかなウソが書いてありましたら遠慮なくご指摘ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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