10月15日、日立製作所は、国内では初めてとなるレンズを使用しない「レンズレスカメラ」の技術を開発したと発表しました。
ふつう、デジタルカメラと言えばレンズで像をセンサー上に結ばせて、データを画像センサーで読み取ります。レンズがないってことは、センサー上に像が結ばないってことなんでしょうか?
日立の開発した「レンズレスカメラ」技術の原理とはどういうもので、どんな特徴があるのか?
また、画像の解像度はどのくらいか?
今日の記事では、日立の「レンズのないカメラ」についてご紹介しましょう。
先行するレンズレスカメラ技術
レンズのないカメラは、実は日立のオリジナル技術ではありません。海外にはすでに先例があります。
たとえば、アメリカのライス大学の研究グループは、「FlatCam」と言う、同様にレンズのない撮像素子だけでも画像が撮影できる技術を開発しています。(レンズなしで画像を撮影できる新技術「FlatCam」)
撮像素子(画像センサー)の表面に格子状のマスクが置かれていて、被写体からの光は格子を通ることで、微妙に異なるさまざまな情報を持って撮像素子に届きます。
撮像素子の個々の画素には「像」のデータは含まていません。すべての画素の明るさを解析し合成すると撮影した被写体の像となります。
試作モデルでは、撮像素子そのもののサイズは不明ですが、解像度は512×512ドットとあまり高くありません。
画素の解析と合成にはたくさん計算処理が必要となるため、計算を行うプロセッサーの能力の問題から画素数を大きく増やすことができないのかもしれません。
日立のレンズレスカメラの技術
それでは、今回発表された日立のレンズレスカメラの技術について見ていきましょう。
日立のレンズレスカメラの原理
日立が開発した技術では、FlatCamの格子状マスクの代わりに同心円を印刷したフィルムを使います。
外側ほど間隔が狭くなる同心円パターンを撮像素子の直前に置いて撮影された画像データに、同じ同心円パターンを重ね合わせると、光線の入射角に対応した間隔のモアレ縞ができます。
このモアレ縞を、フーリエ変換と呼ばれる簡単な計算処理を行うことで撮影した被写体の画像が得られる、というものです。
日立のレンズレスカメラの特徴
日立の開発したレンズレスカメラの技術の特徴を上げます。
- 同心円パターンフィルムを使用した
一番の特徴は、同心円パターンフィルムを使用したことでしょう。これは、後にあげる2つの大きな特徴と密接に関係しています。 - 画像処理に必要な計算量を300分の1に減らすことができた
おそらく、比較対象となっているのは格子状マスクを使用した「FlatCam」または同様の技術だと思われますが、先行するレンズレスカメラ技術と比較して計算量を300分の1にできました。これは画期的なことだと思います。
画素数を増やし高解像度とすることもできるでしょうし、あるいは動画撮影にも十分なフレームレートをもって対応できるようになります。 - 撮影後にピントの調整ができるようになった
撮影された画像データに重ねる同心円パターンの倍率を変えると、ピント位置の移動ができます。被写体が前後に奥行きのある場合、撮影後に手前にピントを合わせたり、奥にピントを合わせたりが自由にできるのです。
撮影後にピントの調整ができる技術には、すでにアメリカLytro Tech社の「Light Field」という技術があります。しかし、こちらは特殊なレンズを使うもので、大きさもかさばるものです。(撮った後からどこでもピントが合う魔法のカメラ「Lytro」発売 399ドルから)
日立のレンズレスカメラの解像度は?
日立によると、今回開発した技術の性能を測定するために、1cm角の画像センサーを使用して実証実験を行ったところ、標準的なノートパソコンで毎秒30フレームで動画撮影できることが確認できた、ということです。
1cm角のセンサーと言うと、スマホ(1000万画素以上)などに使用されているセンサーが 1/2.3型と呼ばれる6.2mm×4.6mm くらいのサイズですから、それよりもかなり大きいです。
しかし、画像センサーの直前に同心円パターンフィルムを置くため、解像度はこの同心円パターンの細かさに左右されそうです。
本記事のトップに掲げてあるアイキャッチ画像は、日立の発表で使用されていたものですが、ノートPCに映っている画は、あまり解像度が高いように見えません。VGA(640×480)程度なのかもしれません。
もしかしたら、1000万画素あるいはそれ以上の高解像度は、画像処理を行うプロセッサーの能力にも依ると思いますが、なかなか難しいかもしれません。
日立のレンズレスカメラの適用
日立は、今回発表されたレンズレスカメラの技術を、モバイル機器や車、ロボットを初めとしたあらゆるものへの適用をめざす、としています。
「モバイル機器」とありますので、もちろんスマートフォンも含まれていると思われます。ということは、現行のスマホに搭載されているカメラと同等かそれ以上の性能を実現できると、日立では考えていると思って良いと思います。
レンズがないため機構は簡単になりますし、カメラ部は薄くコンパクトになりますので、既存のカメラ(モジュール)に比べてコスト面でも有利だと思われます。
2年後の2018年の実用化を目指すと言うことですから、意外に早く製品となった日立の「レンズレスカメラ」が登場するのではないでしょうか。
まとめ
10月15日に、日立製作所から発表のありました「レンズレスカメラ」の技術について、
- どのような原理で動作するのか
- 特徴は何か
- カメラの解像度はどのくらいか
- どのような製品に適用されるのか
をご紹介しました。
今回発表された日立のレンズレスカメラ技術は、既存のレンズレスカメラ以上に素晴らしいものだと私は思います。
ちょっと地味な技術にも思えますが、気がつくと世の中のほとんどの「カメラ」がこの技術を使用したものとなっているかもしれません。
2年後の2018年が待ち遠しいです。
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