北半球では実に約25年ぶりとなる明るい彗星となりそうなアトラス彗星(C/2019 Y4)が話題となっているようですね。
肉眼で見えるようになるのはもう少し先ですが、これから4月の上旬にかけて、お茶の間のニュースにも登場するかもしれないアトラス彗星から目が離せません。
(タイトル画像は百武彗星です)
アトラス彗星(C/2019 Y4)
この美しい画像は3月18日に、ニューメキシコ州で撮影されたもの。左上の緑色のもやっとした天体がアトラス彗星です。右下にはM81とM82が写っており、ほかにもたくさんの系外銀河が確認できます。
発見からこれまで
アトラス彗星は、去年(2019年)の12月28日に、小惑星地球衝突最終警報システム(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System; ATLAS)によって発見されました。
ATLASはその名前の通り、地球に衝突しそうな小天体を発見するための自動化されたシステムですが、その運用の副産物として彗星を発見したというわけですね。
アトラス彗星は明るさはおよそ20等級でおおぐま座の中に発見されました。このとき、太陽からの距離は約4億4,000万キロメートル、火星までの距離の約2倍くらいの位置にありました。
SKY&TELESCOPEによると、その後の明るさの推移は次のようになっており、順調に明るくなってきています。
日付 | 明るさ | 観測機器 |
---|---|---|
2月16日 | 14等級 | 40cm望遠鏡 |
3月6日 | 11等級 | (記載なし) |
3月中旬 | 9等級 | 10×50 双眼鏡 |
当初は光度の上がり方がかなり急で、ひょっとしたら金星(!)よりもずっと明るくなるかもしれない、という予想もありました。
NASAのHORIZONで計算してみると、最も明るくなるときで -5 等級という結果が出ますが、これはアトラス彗星が太陽に最も近づいたときの明るさです。
この計算どおりの明るさになったとしても、このときアトラス彗星は太陽のすぐ側に見えることになるため、肉眼でその明るい姿を見ることは難しいでしょう。
肉眼で見るなら5月初めから中旬、方角は北西の空
アトラス彗星がもっとも太陽に近づくのはは5月31日。この日が近づくにつれてどんどん明るくなっていきます。
下の画像は、ステラナビゲータを使用して、3月29日からの3か月間のアトラス彗星の位置と明るさを星空に描いたものです(画像はタップすると大きなサイズで表示されます。星空は東京の3月29日20:00時のものです)。
日付の後ろの数字は明るさ(等級)を表しており、すでに3月29日には8等級となっています。空が暗いところであれば、一般的な双眼鏡でもアトラス彗星を見ることができるでしょう。
肉眼で、双眼鏡などを使わずに見るには、4等級くらいになっていることが必要だと仮定すると、5月のゴールデンウィーク開けを待つ必要があります。方角は北西。(ただし、見た目は「彗星」というよりも、光のシミのように見えます)
その後、アトラス彗星は明るさを増していき、5月20日くらいには2等級(北極星と同じくらいの明るさ)になります。おそらく尾も長く伸びてきて、いわゆる彗星らしい姿になっているはずです。
日付 | 明るさ(等級) | 太陽離角(度) |
---|---|---|
3月29日 | 8.1 | 95.6 |
4月5日 | 7.7 | 86.5 |
4月10日 | 7.4 | 80.1 |
4月15日 | 7.0 | 73.8 |
4月20日 | 6.6 | 67.5 |
4月25日 | 6.1 | 61.1 |
4月30日 | 5.5 | 54.7 |
5月5日 | 4.9 | 47.9 |
5月10日 | 4.1 | 40.6 |
5月15日 | 3.1 | 32.5 |
5月20日 | 2.0 | 23.3 |
5月25日 | 0.6 | 14.0 |
5月30日 | -0.1 | 12.2 |
上は、日付ごとのアトラス彗星の明るさと太陽離角を表にしたものです。太陽離角とは、大雑把に言うと太陽からどのくらい離れて見えるかを表しています。この値が大きい方が太陽の光に邪魔されない、と言っても良いでしょう。
上の画像は5月20日の19:201頃、太陽が沈んでから約40分後の北西の空をステラナビゲータでシミュレーションしたものです。ご覧のとおり、まだ空には明るさが残っており、高度も10°くらいとかなり低いことが分かります。
10°ですと、街なかでは建物、郊外では小高い丘や近くの山の影になってしまうこともよくあります。北西の方向が開けた場所、あるいは高い建物や山の上などで観測することをおすすめします。
どのくらい明るくなるかは分からない
本当に ー5等級になるかは分かりませんが、天文ファンのアトラス彗星への期待には高いものがあります。2等級くらいにはなることがほぼ確実視されており、これほど明るくなる彗星は、北半球で条件よく観測できる彗星としてはヘールボップ彗星、百武彗星以来の約25年ぶりだからです。
これほど期待されているのには理由があります。
じつは19世紀に現れた彗星、「1844年の大彗星」とアトラス彗星の軌道がとても良く似ているのです。
「1844年の大彗星」は、1844年の12月18日に発見され、翌年の1月末までの間、肉眼で見ることができたそうです。
明るさ(光度)についての記録が見つかりませんでしたが、当時、この彗星は南半球でもっとも明るい天体のひとつとして空に見えていたと言いますから、どれほど明るかったか想像できるでしょう。
そんな大彗星とよく似た軌道を持ち、すでに明るくなることが予想されているため、どうしても期待してまうのも無理ないことです。
でも期待し過ぎはいけません。
これまでにも、非常に明るくなると予想され、みんながわくわくして待っていた彗星の中には期待ハズレで終わったものもありました。
たとえばアイソン彗星(C/2012 S1)。やはり過去の大彗星と軌道が似ており、それまでの観測結果から金星や満月の明るさになると予想されていたものの、太陽にあまりにも接近しすぎ、彗星は崩壊してしまいました。
コホーテク彗星(C/1973 E1)も、マイナス等級に達する今世紀最大の彗星として期待されましたが、3等級にしかならず(それでも明るいほうですが)、大きすぎた期待に沿うものにはなりませんでした。
彗星は、軌道も構成する物質もそれぞれみな異なるため、こんなに観測技術が進んだ現代でも、どのくらい明るくなるかについては正確に予想することができません。
過大な期待はせずに5月の大型連休開けを待つ、そんな感じで良いのではないでしょうか。
でも、正直なところ、私はメッチャ楽しみにしてます 🙂
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